Appalachian Trail
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僕がアパラチアン・トレイルに抱くイメージは、窓の外の景色そのものだ。常にジメジメと高湿で雨が多い。その為、ハイカーは常に濡れていて、全身から生乾きの雑巾のような悪臭を発している。
スルーハイキングの場合、おおよそ4-7日の無補給ハイキングを6ヶ月弱の間、連続して行うことになる。
スルーハイキングは雪解けの春に出発し、雪が降り始はじめる晩秋には歩ききるのが基本になっているが、今回のアパラチアン・トレイルは低山のため積雪の心配があまりない。だからビザの期限の上限6ヶ月はトレイル上でのんびりと過ごし、できるだけ遊び尽くそうと決めていた。
1ヶ月で10万円、6ヶ月だと60万円あれば、アパラチアン・トレイルを全行程歩くことができる。実際は5ヶ月程で踏破できるであろうから、浮いたお金はハイキング用品の買い足しなどに当てることができるだろう。
余裕を持って帰ることを考えると、スルーハイキングに要する期間は22週ほどが妥当だろう。1週間の予算は25,000円というのが僕の基準だ。
僕のハイキング時の食事は、朝にスナック菓子、昼はサンドウィッチ、夜にパスタかライスを調理する。ほぼ毎日この繰り返しで問題はない。
朝のスナックはチョコバーが3本と考えて500円。昼のサンドウィッチはベーグルにチーズと肉を挟むだけなので500円。パスタかライスは安価なクノール製品を買って200円。これに加えて行動食は、もっぱら朝食と同様のチョコバーを食べて続けるので1日に6本ほどで1,000円。つまり1日の食費は合計2,200円。7日で15,400円。あとの10,000円は、トレイルを歩かない休息日=ゼロデイに安宿に泊まってビールを飲む費用にあてる。
僕は2019年アパラチアン・トレイルを2135人目にスタートするハイカーだ。
アパラチアン・トレイルの踏破率は20%といわれている。これには諸説あり、ゴールを申告しないハイカーがいたりすることから、実はもっと高いのではないかとも言われているが、僕は20%という数字は妥当であると考えていた。
僕は朝はスナックを齧り、ランチにラーメンをふたつ、ディナーにクノールの120円ほどのパスタを食べて過ごしていた。かなり安上がりで腹も膨れるので何も考えずに食べ続けていたが、5か月ほど続けていると驚くほど痩せ始めた。とくに上半身の筋肉が無くなり、バックパックのショルダー部分が薄くなった肩に当たって出血していた。その頃からときどき貧血が起こるようになり、PCTを歩ききってカナダのバンクーバーにたどり着いた頃には病人のように痩せ細っていた。まさしく身を削るような旅になってしまった。
求める栄養素全てをトレイルで確保し続けることは難しい。マウンテンハウスなどのブランドは美味しく栄養価の高いトレイルフードを販売しているが、これらは1食分が8ドル近くするので、半分ホームレスのようなスルーハイカーたちにはなかなか手が出せない代物だ。ゆえにハイカーたちはスーパーで安価で軽量な食材を探し、工夫して食べるしかない。
その結果、僕は常に安定して手に入れることができるトルティーヤ生地もしくはベーグルに、チーズ、サラミ、マヨネーズを挟む食事法に行き着いた。流石に値段はラーメンよりも張るが効果は想像以上で、歩けば歩くほど体力がついていった。そして、水を使わない調理の思わぬ副産物として、水の重量、調理時間、そして水場の環境の良し悪しから解放されて、ハイキングがより気楽になった。
スクランブルエッグを作れる
6個入りの卵が1ドル、チーズも24枚入りで1ドル、ベーグルは6個で5ドルほどだ。
この食事はアパラチアン・トレイルの補給期間の短さが可能にしている。3日間ほどの縦走ならば、生の卵が腐ることはない。そしてその日数ならば、多少荷物が重くなろうとも、安くて栄養価が高く美味しいなら、そちらの方が良いに決まっている。